竣工から一年というわずかな時間で改修を余儀なくされたテナントビル。

このビルは東京近郊の駅周辺に建つ間口4メートルの小さな鉄骨造3階建てである。

 

[改修前:利用形態と法規制のずれ]

改修前の建物は、道路に面した部分に間口の約半分を占める階段室(竪穴区画)があり、それ以外の部分を各階が独立した専有部とする計画。だが、この階段室を除いた部分の間口が約2メートルになるなど、利用者にかなり限定的な使用を強いる印象があるためか、借り手の付かない状態にあった。

そこには、建物に求められる利用形態と法規制に対する不十分な考察の結果、両者が半ば無理矢理に摺り合わされた過程が容易に想像され、露呈していたのである。

 

[設計過程→改修後:利用形態と竪穴区画の同時再編]

この状況に対し、我々による竪穴区画の配置検討をもとに、オーナーや不動産仲介業者、施工者との利用形態に対する検討を重ねていった。

この過程の最終段階では、有効な賃貸面積を最大化するというテナントビルにおける命題と、各室の独立性とフレキシビィリティを同時に確保する方法として、竪穴区画を占有部に含み込むという我々設計側からの提案を行った。また、オーナーや仲介業者よって、その提案のテナントビルとしての妥当性が検証された。

結果、2つの階段を建物の対角に配置し雁行した竪穴区画を形成する計画となった。大小3つの室は、区画により独立性を担保されながら、区画を横断する室どうしの利用などが想定されたプランとなっている。

竣工後、ユーザーが店舗等の利用形態を検討する際に、雁行した竪穴区画部分はある種「規制」となりながらも、室同士の連携した様々な運営を誘発する「手掛かり」として機能することだろうことが期待される。

 

[竪穴区画における法規制の批評的運用:プラットフォームとなる建築的思考]

これは、法規制や建築生産の合理性に対して無自覚にして無批判な過程を経て乱立する多くのテナントビルに対する批評であり、すなわち法規制の批評的運用の実践である。

また一方で、利害関係者の建物運用についての意思を決定する基準(プラットフォーム)として、雁行した竪穴区画部分がコンテクストとして自律的に存在した(しうる)事が、このプロジェクトにおいて特筆すべきことであると、我々は考えている。

それは、集団的意志決定のプラットフォームとして建築的な思考が介在する能力、つまり建築的思考の政治性とその可能性を示しているからである。

集団的意志決定のなされる場面において、我々はより公共性の高いプラットフォームとなる建築的思考を提示することで初めて自律的な発言力を持ちうる。言い換えるならば、意思決定への建築的思考をモデルとして視覚化し提示することことにより、初めて建築家は社会と共にある。

そのように我々の職能を捉え直すとすれば、このプロジェクトはその新たな枠組みを模索するものである。

(岡村航太 / 8d)

DATA

所在地 :神奈川県川崎市

主要用途:テナントビル

設計監理:8d / ハッチョウボリ・デザイン・オフィス

     越路龍一建築設計事務所 HPhttp://www.ksjrch.jp/

工事種別:改修工事

竣工年月:2009.11

撮影  :越路龍一